ドイツ児童書出版社の動向レポート
1.OECDのPisa調査から授業方法の改革
OECD生徒の学習到達度でPisa(Programe for International Student Assessment)調査の結果は、57ヵ国比較でドイツの子供達の順位(科学13位、読解力18位、数学20位)は思わしくなかった。日本は、科学6位、読解力15位、数学10位でした。その為、ギムナジウムなどで、授業方法の改革が行われようとしていいます。ギムナジウムとは、日本の小学校5年生から高校3年生までが通う、ドイツの中高一貫学校(8年から9年間)です。ギムナジウム卒業資格試験(アドトゥーア)に合格すると、大学入学資格がえられます。
ドイツでは5年生から13年生迄の子供達の5人に一人は補習授業を受けています。補習授業に対する支出は大変大きく、ドイツ連邦政府の調査によれば「補習」分野に対する個人支出は、時間的経費も含めれば、2007年度、計20億ユーロに迄も達したと考えられています。また、学習を助ける本類に対する親たちの関心は非常に高く、家庭でも、教師達には任せずに、親が自分達で子供たちの読む力をつけさせる努力がなされています。
ドイツの放課後市場(Nachmittagsmarkt)の売り上げは、2007年度5200万ユーロでした。親達は本を選ぶ際、その本の適応年齢(何歳向けかということ)にこだわる必要は特になく、大切なのは、子供たちが読書の基本を身に着けるということに重きを置いています。以上のような背景から児童書市場は大きなマーケットであり、本を選ぶ選択肢も沢山あります。
2. ドイツ児童書出版社の動向
Loewe Verlag出版社では、33年前に、本を読み始めた子供達を対象とした「Leseloewen」(直訳すれば、読書ライオンという意味になります)というシリーズを発行し、名が通った作家達ばかりでなく、若手の作家達の作品も紹介した。「Leseloewen」シリーズは、後に「Loewe-Leseleiter」(ライオン-読書リーダー。Leiterにはリーダーの他、梯子の意もあります)として発展、5歳から8歳までの読者層を3レベル(レベル1=5歳以上、レベル2=6歳以上、レベル3=7歳以上)に分けたシリーズを発行しています。また8歳以上対象もあります。その特徴として、今回発行されたAlexandra Fischer-Hunold 作の「Drachengeschichten」(竜の物話)を読むと、各章が短く字が大きいというこのレベルに常に求められるテーマだけでなく、「Lese-Rallye」(読書ラリー)と名付けられた、テキストを理解する為の質問コーナーも設けられています。
児童書出版社Oetingerでは、25年前から「Laterne-Laterne」(ランタン、ランタン)シリーズを世に送っています。ここでも、大きな字と読み易いテキストということは、重要なテーマとなっています。小学校2年生以上向けには「Sonne,Mond und Sterne」(太陽と月と星シリーズが提供され、文字の割合が増えています。名が通った作家達、例えばUrsel Schefflerの「Paula und der Sonntagshund」(パウラと日曜日の犬)やPaul Maarの「Das kleine Kaenguru und derAngsthase」(小さなカンガルーと臆病なウサギ。Angsthaseは一般的に臆病者の意味に使われます)に加え、Sabine Neufferの「Flinker Fuss will Haeptling werden」(フリンカー・フスは酋長になりたい)といった新人作家の作品も発行されています。
16年前にArena Verlag出版社では、「Edition Buecherbaer」を設立しました。本に最初に触れる子供達に対しては「Buecherbaer-Leseschule」(本の熊-読書学校)と名付けられた、5レベルに分けられたシリーズが作られています。これには「鮫」「古代エジプト」「恐竜」といったテーマを扱った、読書を始めた子供達に対する解説書のシリーズも含まれています。2年生以上の子供達に対しては、長いテキストを含んだ絵入りの入門書が提供されています。サッカー欧州選手権に関連して、男子向けだけではないサッカーのシリーズものとしてSibylle Rieckhoffの「Die Torjaeger」(ゴールを決める人達)も発行されています。
出版社Sauerlaender Verlagでは、7、8歳向けに「Frechdachs」(生意気なアナグマ)というプログラムを導入、有名な作家達によって、読者の文学的要求が満たされています。Christine Noestlingerの「Mini ist die Groesste」(ミニは最も大きい)は再販され、再販本は、読者を自分から進んで本を読める子供に育てる為、ふきだしをつけた漫画形式の本の形がとられ工夫されています。
Thienemann Verlagでは、「Thienemanns Buchpiraten」(Thienemannの本の海賊)という3年生から5年生の子供向けのシリーズを「Thienemanns Quatschgeschichten」(Thienemannのばかげたお話)として発行しました。これは、「lesen und kichern」(読んでくすくす笑う)というスローガンのもと、教育的なコンセプトよりも、読書を楽しむことを前面に出したコンセプトにしている。例えば、Susanne Dinkel作の「Anton kann alles!」(アントンは何でも出来る!)では、がちょうのガビとサルのアントンの友情を、絵の下に書かれた短いテキストによって、簡単に楽しむことが出来ます。
読み聞かせから自主的な読書への橋渡しの為に、cbj(出版グループRandomHouseが出している、子供と青少年向き本の総称)は新しいオリジナルコンセプトを開発しました。
「Erst ich ein Stueck, dann du」(まず僕が1章節、それから君が)という形がとられ、大人向けのテキストは普通の大きさの文字で、子供用の節は大きな太文字で書かれてあります。Patricia Schroeder作の新作「Camillo,ein Hund macht Ferien」(カミロ、一匹の犬が休暇をとる)と「Ein Burg fuer RitterRudi」(騎士ルディの為の城塞)の2冊で、男女共に楽しめる出来上がりとなっています。
昨年、児童書市場に登場した出版社Tulipan Verlagでは、「Tulipan ABC」と名付けられた3レベルのシリーズを開発、質の高い装丁とオリジナルな物語を通して、市場に新しい分野を定着させようと試みています。Martin Baltscheit作の奇妙な話「Keine Kuscheltiere fuer Joanna」(ヨハンナのぬいぐるみはない)という物語は、誕生日プレゼントに場所を譲る為に、ヨハンナの部屋から追い出されそうとなったぬいぐるみ達の革命が描かれています。
古典的なシリーズとしては、出版社Thienemann Verlagが、Michael Ende作の「Jim Knopf und Lukas der Lokomotivfuehrer」(ジムボタンと機関士ルーカス)を再販しました。これは3部作で、綺麗なイラストが描かれています。Arena Verlagでは、「大人向けの古典」として、Howard Pyle作の「Robin Hood」をMaria Seidemannの現代ドイツ語訳で出版しました。
Adam Bladeによる新しいファンタジーシリーズ「Beast Quest」は、3歳以上の男子向けとして、Loewe Verlag出版社から発行されました。これは、メガセラーとなった「Das magische Baumhaus」(魔法の木の家)と似ており、小さなトムが勇気のある英雄となり、Avantia王国を悪者から救う。「Nanook,Herrscherin der Eiswueste」(ナノーク、氷の砂漠の支配者)は6部作の5巻目となります。
3. 読み始めの子供達に対する小説市場
読み始めの子供達に対する小説市場は、以上述べたように巨大ですが、多くの子供達は、架空の世界よりも現実の世界に興味をもっていようです。これに関しては、出版社も既に承知で、「僕が君にこの世界を紹介してあげる」の原則で、多くの実用書も発行されています。紙細工師のRobert SabudaとMatthew Reinhartの手による「Haie und andere Meeresrauuber」(鮫と他の海の肉食動物達)という作品では、海底に住むモンスター達の世界が、非常に詳細且つ色鮮やかに再現されており、Popup技術も駆使されています。テキストに関する小さなインフォメーションが蓋(これは、日本語で何と言うのでしたっけ?)の後ろに隠されています。
4. 児童の放課後の読書市場
放課後市場では、読書を促進するのみでなく、子供達に算数等の力をつけさせるということも重要視されています。児童書出版社は、この分野においては、意識的に典型的な教科書とは一線を画して出版企画を行っていま高級官吏、高級軍人、高額納税者などす。フリータイムは、楽しまなければならない、というモットーから、テキストの中の登場人物は、子供向けの本の中から人気のキャラクターを採用し、これによって子供達は、キャラクターとの一体感を感じることが出来る構成となっています。
Oetinger Verlag出版社は、参考書分野を「遊びながら簡単に学ぶ」ことをテーマに、3つのレベルに分けている。就学前の子供達にはLieve Baeten作の「Die schlaue,kleine Hexe」(賢い<抜け目のない賢さを意味する>小さな魔女)が指導する作品になっています。1、2年生向けには、Erhard Dietl作の、実際には怠け者の「Olchis」が案内役で「Das kleine Einmaleins」(小さな一掛ける一)や「Die Rechtschreibung」(正書法)に対するヒントやトリックを与える作品になっています。3、4年生の女子向けの市場では、Cornelia Funkeの「Die Wilden Huehner」(乱暴な鶏たち)を登場させています。
算数と国語(ドイツ語)に関してRavensburger出版社は、新シリーズ「学習-探偵-今、分かった」を発行、膨大な量の遊びながら学ぶ参考書「Fit fuer die 2. Klasse」(2年生向けにフィット)には、子供達がひとりで答えあわせが出来るよう、解答ルーペもついており、親がチェックする必要がないように工夫されています。
5. コンピュータによる学習分野
もちろん、CD、CD-ROMやコンピュータソフトといった分野も、放課後市場において、どんどん拡大していっているマーケットになっています。特に、コンピュータによる学習分野の発展は目覚しく、雑誌「Eltern for family」(Elternとは、ドイツ語で両親を意味します)の調査によれば、90%の親達が、子供が家庭でコンピュータで学べば、学校での成績が上がるものと考えているとの記事を掲載しています。
大切なことは、本を単にデジタル化するのではなく、そのノウハウをよく考えることであることを強調しています。学校生徒のプロジェクト「Die jungen Dichter und Denker」(JDD)(小さな詩人と思想家)によるCD「Das kleine Ein-Mal-Eins singend lernen」(小さな一掛ける一を、歌いながら学ぶ)は成功した一例で、Hip HopやRapを使って、算数でさえも楽しく、学ぶことが出来ることを証明したと紹介しています。有名な歌手グループ「FantastischenVier」のThomas D.もJDDの後援者(スポンサー)及び助言者となっています。このJDDは、なかなか面白そうなプロジェクトなので、今度、出来れば取材してみたいとも思っています。
※本記事は、2009年1月に発行された光陽メディア「草の根エージェント通信」より転載
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